旅できる体力も、資産のひとつかもしれない
HEALTH · 情報基準日 2026-06-09 · 約3,800字 · 約8分
配当金が口座に入る。マイルが積み上がる。高級ホテルへのアクセスが開く。
これらが揃ったとしても、足腰が動かなければ、空港で長距離を歩けなければ、長時間フライトの疲れが抜けなければ、旅は始まらない。
資産形成の話をするとき、私たちはお金の残高を考えます。マイル戦略の話をするとき、ポイントの積み上がりを考えます。ただ、あまり触れられないのが「旅を実行できる体の残高」です。
これを本稿では「移動できる力」と呼びます。そして、移動できる力は資産と同様に、積み上げるか放置するかで大きく結果が変わります。
ポルト:「資産はお金だけではないのじゃよ。貸借対照表に載らないけれど、もっと重要なものがある。それが体じゃ。」
マイル:「でも健康って、急に失われるものじゃないよね。少しずつ減っていく感じ?」
執事H:「おっしゃる通りです。お嬢様。元本保証がない点でいうと、むしろお金より難しい資産かもしれません。整理いたしましょう。」
「旅行できる体」の4つのインフラ
旅行を続けるために必要な体の機能を、編集部では4つに分けて考えています。
インフラ1: 筋力(歩き続けられるか)
空港のターミナルは広い。成田T1からT2は移動距離が長く、パリCDGやロンドンヒースローはターミナル間の移動で相当な体力を使います。
観光地でも、ヨーロッパの旧市街は石畳が多く、京都や奈良は丘や階段が続きます。旅行中の1日の歩行距離は、都市観光で8,000〜15,000歩が普通で、アクティブな旅ではさらに上をいきます。
ここで問題になるのが、日常の運動量が少ない場合の体力の低下です。
筋力は30代以降、毎年約1%前後のペースで自然に低下するとされています(サルコペニアと呼ばれる現象の文脈)。放置すれば、5年で数%の低下につながり得る。「10年後も同じ旅行ができるか」という問いに対する答えは、今の筋力の積み上げ次第です。
維持のために必要なことは、極端なトレーニングではありません。週2〜3回の有酸素運動と軽い筋力トレーニングが、旅行継続という目的においては十分な設計です。
インフラ2: 睡眠(フライト後のリカバリー)
長距離フライトは睡眠パターンを大きく乱します。時差・機内の乾燥・座位が長い姿勢——これらが重なると、到着後1〜3日の体調に影響します。
若いうちは「到着翌日には回復できる」という感覚がありますが、40代以降はリカバリーに時間がかかる傾向があります。
睡眠の質は日常の習慣と密接に連動しています。普段の睡眠が7時間未満・質が低い状態が続いていると、フライト後のリカバリーがさらに遅くなるという構造があります。
旅行を続けるための睡眠投資——具体的には寝具の見直し・就寝前のルーティン・スマートウォッチによる睡眠モニタリング——は、「健康のため」ではなく「旅を楽しめる体を維持するため」という文脈で設計できます。
インフラ3: 関節(膝・腰が旅を制限しないか)
「行きたい場所はあるが、膝が痛くて歩けない」という状況は、体力の貯金が底をついた状態です。
膝関節の問題は、一度悪化すると改善に時間がかかり、旅行計画そのものを見直す必要が生じます。登山・長期ハイキング・丘陵地の観光が選択肢から外れていく。
予防は治療より安く、より早くできます。体重管理・筋力維持・適切なシューズの選択——これらは「老後の話」ではなく、旅行の選択肢を守るための現役時代の設計です。
インフラ4: 血糖値の安定(食の楽しみを守る)
旅行の大きな楽しみは食事です。現地の食文化に触れること、美食を楽しむこと——この体験は、血糖値のコントロールが難しくなると制限が増えます。
アルコール・甘い食べ物・炭水化物の多い食事——これらが旅先では自然と多くなります。日常から血糖値のコントロールを意識した習慣を持っているかどうかが、旅先での選択肢の幅に影響します。
「体力の資産形成」に必要なコスト
資産形成と同様に、体力の維持にも「積立コスト」がかかります。
| 投資項目 | 年間コスト目安 | リターン |
|---|---|---|
| ジム会費または運動習慣 | 5〜15万円 | 筋力・心肺機能の維持 |
| 定期的な人間ドック | 3〜8万円 | 病気の早期発見・医療費の削減 |
| 歯科クリーニング(年3〜4回) | 2〜4万円 | 食の楽しみを守る・虫歯予防 |
| 良質な睡眠環境(マットレス更新) | 初期投資5〜20万円 | フライト後のリカバリー改善 |
| 関節ケア(シューズ・サプリ) | 1〜3万円 | 歩行可能距離の維持 |
| 合計 | 16〜50万円/年 | 旅行継続できる体 |
上限の50万円は積極投資した場合で、実際には20〜30万円前後が多くの人の現実的なラインです。
参考として、年1回の旅行(国際線往復+ホテル5泊)のコストは一般に20〜50万円。旅行できる体を維持するコストと、旅行そのもののコストは、同じオーダーにある。
この事実は、「体の維持にかけるお金はもったいない」という感覚を少し変えるかもしれません。
体力の低下は「急に来ない」が「じわじわ来る」
お金の場合、急落はニュースで教えてくれます。ただ体力の低下は、ある日突然「去年行けた場所が今年は行けない」という形で気づくことが多い。
気づいたときには、回復に時間がかかる状態になっているのが体力の低下の特徴です。
これは資産形成の「複利の逆」と捉えることができます。積み立てをやめると複利効果が止まり、引き出し続けると元本が減る。体力も同様で、維持を怠ると引き出し続けた結果が積み上がり、回復のコストが上がる。
「老後から健康に気を使い始める」より、「旅行を続けたい今から設計する」方が、コストも少なく、効果も大きい。
MP判定 — 体力維持の投資設計
MP判定: 体力維持の投資パターン
- A. 最小コスト型(運動習慣なし・人間ドックのみ)
→ お金の合理性 ★★★☆☆ / 旅行継続力 ★★☆☆☆ / 長期の自由度 ★★☆☆☆
→ 短期のコスト最小だが、旅行の選択肢が年々狭まるリスクがある
→ 「歩けなければ行けない場所」が増えていく設計
- B. 旅行継続を目的にした設計(MP推奨)
→ ジム or 週2〜3回の習慣運動 + 年1回人間ドック + 歯科年3〜4回
→ お金の合理性 ★★★★☆ / 旅行継続力 ★★★★☆ / 長期の自由度 ★★★★☆
→ 年間20〜30万円のコストで旅行の選択肢を10〜20年先まで守る設計
→ 「旅行のための投資」と捉えると動機が明確になる
- C. 積極投資型(パーソナルトレーニング + 人間ドック上位 + 睡眠環境投資)
→ お金の合理性 ★★★☆☆ / 旅行継続力 ★★★★★ / 長期の自由度 ★★★★★
→ 年間40〜50万円のコスト
→ SFC修行・長距離旅行を頻繁に行う生活スタイルには見合う設計
おすすめ度: B が費用対効果の中央値。旅行頻度・年齢・現在の体力水準で
A〜Cの配分を判断する。「旅行できる体を維持する費用」として
旅行予算と並列で考えると設計しやすい。
「旅できる体力」を人生ポートフォリオに加える
お金の資産配分を考えるとき、株・債券・現金のバランスを整理します。MPでは、それに「体力」と「時間」も加えた人生のポートフォリオという発想で考えます。
旅できる体力を維持することは、マイルや資産と同じように「今から積み立てる」性質のもの。一度失うと取り戻すコストが大きい点も似ています。
20代・30代で旅をたくさんしている方が「今は体力があるから大丈夫」と考えるのは自然なことです。ただ、その体力の貯金がいつ底をつくかは、日常の設計次第で変わります。
旅を、10年後も、20年後も続けたいなら。その前提として、体力という資産を今から積み立てる設計が必要です。
マイル:「じゃあ、旅のためにジム通いするって、贅沢じゃなくて投資?」
執事H:「旅行を続けたいという目標に紐付いていれば、投資でございます。目的のない出費と、目的のある出費は、同じ金額でも性質が異なります。」
ポルト:「人生ポートフォリオには、お金・マイル・健康、この3つが揃って初めて旅が動く。どれか一つでも欠けると、残りが機能しなくなるのじゃ。」
LIFESPAN 老いなき世界(デビッド・A・シンクレア / 東洋経済新報社)
老化を「病気」として捉え、予防と投資で人生の活動可能期間を延ばすという発想の科学書。旅行継続を目的にした健康投資の動機づけとして。
参照(情報基準日 2026-06-09)
- サルコペニア(筋肉量低下)に関する一般的知見(厚生労働省・各医学会資料)
- 国内外空港ターミナルの歩行距離(各空港公式マップ)
- 旅行中の歩行数に関する一般的傾向(旅行統計・ライフログデータ)
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本記事は note では公開していない、MileagePortfolio サイト独占の健康資産論コラムです。情報基準日:2026-06-09。医療・健康に関する情報は個人差があります。具体的な健康管理は専門家にご相談ください。
この記事をもっと深めたい人へ — 本と映像のすすめ
記事の整理だけでは足りない人向けに、関連する書籍と映像作品を置いておきます。
- 最高の人生の見つけ方 (2007)
残された時間と健康をどう使うか。体が動くうちの旅の価値を静かに教えてくれる。 - イート・プレイ・ラブ (2010)
ジュリア・ロバーツ主演。心と体を取り戻す1年の旅。健康と人生のリセットに。 - 365日のシンプルライフ (2013)
持ち物を手放し心身を整える実験的ドキュメンタリー。暮らしの軽さを考える一本。
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